[開催レポート] 12/10(日) レクチャー&アナリーゼ&マスタークラス

2017年12月13日水曜日

12月10日(日)、桐朋学園大学 調布キャンパスにて、ソナタコンクール「レクチャー&アナリーゼ&マスタークラス」が行われました。5名の豪華講師陣による、充実のレクチャー、アナリーゼ、マスタークラスの模様をレポートします!

<目次>


レクチャー:クラシック音楽とどう向き合っていくか 菊地裕介先生

ピアニスト・指導者・審査員など、様々な立場からソナタと向き合っておられる菊地裕介先生によるレクチャーからスタートしました。音楽の最も基本的な3要素(「リズム・音の高低・音の大小」)や、音楽は「作曲者・演奏者・聴衆」がもつ三者三様の背景の上に成り立つこと...など、「音楽とはなにか?」ということを再確認しました。 続いて古典ソナタの基本について。ソナタ形式は単なる三部形式と何が違うのか?ということに触れながら、ソナタ形式の考え方は同時代を生きたドイツの哲学者・ヘーゲルの「弁証法」と結びつく、というお話まで!学べば学ぶほど新しい気づきを発見できる「ソナタ」の奥深さを会場にいた参加者全員が認識したはずです。
レクチャーの最後には、ベートーヴェンのピアノソナタ第23番「熱情」を例に、曲の細部に込められた意味合いや曲全体を通したモットーを探っていきました。曲をより深く理解していくためには、楽譜を深く読み込むこと、ピアノの曲だけでなく様々なジャンルの曲を聴き、知ること、作曲された当時、どんなふうに物事を考えていたのかを知ること...様々なことを「知る」という経験が大切です。そうした「知る」を経て、初めて楽譜に込められたメッセージを紐解くことができるのです。音楽へ向かっていく姿勢というものを、菊地先生のお話から感じ取ることができたのではないでしょうか。

筆記試験の様子

レクチャーの後に、筆記試験を実施しました。古典期のソナタに関する楽典問題や時代背景問題など、15分間で解いていきます。

筆記試験の問題を解いてみたい方は、以下のリンクから問題をダウンロードすることができます!

筆記試験問題はこちら
筆記試験解答はこちら

アナリーゼ:「ソナタ」ってなんだろう 金子一朗先生

ソナタコンクールでは、その名の通り、クラシック期の「ソナタ」を課題曲に据えています。では、「ソナタ」とは、一体どのように成立したのでしょうか? 金子先生のアナリーゼでは、まず、ソナタ形式とはどこから登場したのか、ということについてのお話がありました。ソナタ形式の始まりは、「 I-V-I 」の和声の緊張感の揺らぎ。これがフレーズ単位での揺らぎになり(2部形式)、それがさらに拡大されたものが「ソナタ形式」として成立したのです。
また、ベートーヴェンの32曲のピアノソナタは、かなり変わっている、と金子先生は仰います。ベートーヴェンがソナタ形式で作曲した曲は、楽章単位でみれば80曲ほどありますが、その多くが特殊な構成とのこと。それらを理解するには、まず基本的なソナタ形式を知る必要があります。そこで登場したのは第20番!誰もが1回は演奏したことがあるであろうシンプルなこの曲を使って、ソナタの標準形を学びます。「確保(第1主題を2回繰り返すこと。印象付けの役割)」や、「つなぎ」と「推移」の違い、展開部や再現部の始まりと終わりの部分を判断するポイントなどを教えていただいたあとは、いよいよ実践!各参加者が用意している曲を分析していきます。自分の曲だけでなく、他の人の演奏曲もグループ全員で分析していくことで、より深い学びを得ることができたのではないでしょうか?

マスタークラス:多彩な音色と表現のためのペダリングとは 石井克典先生

仕上がりのクオリティを左右する要因の1つには、ペダリングもあるでしょう。ペダルは単に「音を繋げてくれる道具」ではなく、音色や表現を多彩なものにするための無限の可能性を秘めたもの。どれくらいの深さで踏むのか?どれくらいの細かさで踏むのか?など、より良い表現を実現していくためのヒントを、石井先生は実際に演奏で聴かせてくださいます。その魅力的な演奏に思わず聴きいってしまいますが、参加者は石井先生の音楽を隣で感じ取れたことで、続く演奏がみるみるうちに変化していきます。 また、調性がもつ性格も正しく理解することが大事、と石井先生。ベートーヴェンにとって「変ホ長調」はどんな意味を持っているか、また、変ホ長調で書かれたピアノ曲以外の作品を知っていますか?そういったことを正しく理解することで、一歩踏み込んだ表現になっていくのです。 最後に、レッスンの最中にさりげなく仰った先生の一言。「ベートーヴェンは神様ではないけれど、神様を引き寄せてしまうような力をもっている。」この一言だけで、ベートーヴェンの作品の偉大さを感じます。

マスタークラス:曲の背景や言語、豊富な知識を持って音楽と向き合おう 岡原慎也先生

ソロ、室内楽ピアニストとしてだけでなく、指揮者としても活躍される岡原先生のレッスンは、ユーモアに溢れながらも非常に的確なアドバイスを与え、ご自身の指揮や声掛けで演奏を導いていくスタイル。25分間のレッスンの中で劇的に演奏が変化していく様は、圧巻の一言でした!
ベートーヴェンのピアノソナタ第26番「告別」を演奏した参加者へのレッスンでは、なぜ「告別」という標題がつけられたのか、背景の確認から始まりました。曲の背景は知っていれば知っているほど曲の理解が深まる、と岡原先生。「告別」はベートーヴェンのパトロンであったルドルフ大公のウィーン出立に際して作曲され、3楽章ともすべて冒頭に副題がつけられています。第1楽章は「告別」、第2楽章は「不在」、第3楽章は「再会」。そこから物語を想像すると、実際の曲もその物語に沿って作られていることが見えてきます。 また、言語の知識も重要です。「告別」はドイツ語で「Lebewohl」(※これは古い言い方で現代で使う人はいない、とのこと。日本語的に言うと「さらば」といったニュアンス。)、これは第1楽章冒頭のモチーフ(G-F-Es)に歌詞のようにつけられていますが、この単語のアクセントの位置を確認すると、G-F-Esのモチーフのふさわしい弾き方を理解することができます。多角的に楽譜を読み込むことがとても大事になってきます。

マスタークラス:音が持つ意味を考えた演奏を 菊地裕介先生

練習室で、本番のステージで、など演奏する瞬間は多々ありますが、みなさんは自分が鳴らした音に対して、どれだけの意味を考え、込めているでしょうか。 音楽には絶対的な正解はありません。これだ!という答えもなかなか出ません。ですが、その曲をどのように捉え、どのように演奏したら良いかを考えているかいないかは、聴いている人は分かってしまう、と菊地先生。レッスンでも「そこはどうしてそう弾いたの?」「どんな意図をもってそうしているの?」と、細かく追及していきます。 例えば、初期のソナタにおいて「ピアノの場面から突如現れるフォルテ」という表現が登場することが多々ありますが、これは、強烈な主張を持っていた若い頃のベートーヴェンの特徴ともいえます。だからこそ、そういった場面でむやみに時間の長短による表現をしてはならないのです。ベートーヴェンの持っていた性質を理解し、それが100%聴き手に伝わるように、また、どうしたら効果的に意味合いが伝わるかをしっかりと考えなければならないのです。 楽譜に書かれていることを読み込むのは大前提。その上で、その情報からどれだけのイマジネーションが湧かせられるかがとても重要です。菊地先生のレッスンは、「考えること」の大切さを身をもって学んだ時間でした。

マスタークラス:「知識」を「音楽」に転換して演奏しよう 関本昌平先生

アナリーゼをして見つけた「曲の細部に込められたメッセージ」、また、曲の成立した背景や言語の知識...など、今まで知らなかったたくさんのことを知ることができたら、今度はそれを音楽に転換していくステージが待っています。 モーツァルトのピアノソナタ第12番では、冒頭に5度の音程で作られたパッセージが登場します。このとき、知識が身についていれば「5度の音程はホルン5度と捉えることができる」と気づくことができます。続いて、狩りをする人たちは狩りをするとどんな気持ちになるのか、を考えます。当時の貴族たちは狩りを趣味、嗜みとしていましたので、きっと狩りをするときは楽しい気分だったでしょう。ここまでできたら、あとはそれらを表現につなげていきます。5度の音程が登場したら、わくわくとした好奇心を持った表情をつけることで、音の持つ性格が説得力を持って聴衆に伝わります。 とはいえ、一言で「楽しい」といっても、弾けるような楽しさの表現がふさわしいのか、品の良い楽しさがふさわしいのかはそれぞれ。モーツァルトの感じた「楽しい気分」がどんなものだったのかを捉えるには、モーツァルトが作曲した他の楽器の作品をたくさん聴いてみて、とアドバイスされました。

個別相談会の様子

1日の最後には、5人の先生への個別相談会が行われました。自分の演奏する曲について、今後の勉強の仕方など、列を作って先生方に質問をしていました。「質問がある」ということは一歩先の学びに足を踏み入れた成長の証。そんな参加者と、質問に優しくアドバイスを下さる先生方との貴重な時間でした。

まとめ

ソナタコンクールの肝となるイベントは、予選・本選での演奏もありますが、何よりも「レクチャー&アナリーゼ&マスタークラス」にあります。それくらい、参加者にとって、学びに満ちた1日を過ごせたのではないでしょうか。単に「指が思い通りに動いて弾けるようになって満足」では、音楽を本当に理解できたとは言い難いでしょう。それらを超えたところに、更なる深い世界が広がっていることを、参加者の皆さんはマスタークラスで知ることができたのではないでしょうか。当時の常識や時代、どんな思考や背景をもって作曲されたのか...、作曲家や曲そのものの様々なバックグラウンドを知ることは、鍵盤から離れた練習ともいえるかもしれません。ですが、「鍵盤に触れていない時間」をどうか恐れずに、ピアノ以外の楽器の作品を聴いたり、本を読んでみたりと、広く深い視点を持って音楽と向き合ってください。 今回のマスタークラスをきっかけに、より一層学びを深めていかれることを願っています!

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